2021年4月27日火曜日

【THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本】ブレディみかこ著 を読んで考える人権

 著者は日本で生まれ、音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返して現在はイギリスで保育士をしているとう方。Yahoo!ニュース|本屋大賞2019ノンフィクション本大賞受賞作品で息子の体験や感じたこと描いた「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」をとても興味深く読みました。(その息子に自分が言った言葉を本のタイトルにして…と突っ込まれたとか)


さて、この作品は20年ぶりに日本に長期滞在し取材をしてイギリスと日本の違いを人権や格差という視点からルポルタージュしたもの。

人権は英国では誰もが生まれながらに持っているもので、子供でも主張するのが当たり前。日本では権利を主張する前に義務を果たせと言われ、自立しなければ主張してはいけない義務とセットで捉える人が多いと語られています。

“はじめに”に著者は日本でも存在しながら目を背けられていた貧困層の生活の体験について語ります。一億総中流と言われバブルに沸いた時代に貧困家庭に生まれ育ち、定期代を稼ぐためにアルバイトをすれば、先生から「そんな家庭があるわけがない」と否定される。

著者のプロフィールには音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し’96年から英ブライトン在住とありますが、そんな世界がThe Blue Heartsの「TRAIN TRAIN」の歌詞“弱い者たちが夕暮れ、さらに弱いものを叩く”を体感していたのかもしれません。

そんな経験をした著者はイギリスで保育士の資格を取る中で身に着けた人権意識の目で日本を見ます。

イギリスでは階級意識が高く社会が分断しているのですが、一方それがゆえに労働者階級にお金がないという事は恥ずかしいことではなく、お金がないと高らかに言える。「貴様らがしっかりやってくれないから、末端は苦しいのだ」と政府に拳を上げる。

今や問題から目をそらし続けてこじらせた日本と、旧態然とした階級闘争を繰り広げるイギリス。どちらがいい悪いではなく、こちらがこうで、あちらはこう…という区別。

その比較論という事になると思います。


わたしは人権というものは「人は神に造られた」というキリスト教の世界で王権神授説なんてものもあった文化と、国造り神話はあるけれど人がどうして生まれたのかという物語のない八百万の神の国文化の違いなんだろうなと思います。

“何に対して平等が”という考え方の基礎の部分。自分の受けた歴史の授業ではイギリスも産業革命の頃は人権なんて全く尊重されていなかったように教えられましたし、フランス革命は軽んじられていた人民の権利を取り戻すための革命。根っこの部分ですべての人は神の前では平等という意識があるので、戦うことが出来、人権を勝ち取ることが出来たのでしょう。しかし神の前では平等であるが、人がそれを勝ち取ら中ればならなかった事実がありますし、差別の問題も認識はされながら残っています。

一方、日本では人が共同体として一緒に生きるための道徳の概念が強くあり、一緒にやっていくうえで何が必要かという行為の前の平等であるため、何をやっていないからという事で簡単に権利がなくなるのだろうな。一方で外部の人には共同体の外の人と見做して寛容に、時に閉鎖的にふるまうのだろうと考えています。

それぞれ人権の前提条件が違うわけです。


日本で草の根運動がうまくいかないことが書かれていますが、そもそも神という絶対的な存在=神の作った世界という地盤がないので根が張れないんだろうなと思います。

その意味でイギリスでは階級が存在し人権を主張しても歴然とした格差が存在する一方、人権が根付いていないとみられる日本で、人権意識の強い国より平等な仕組みが機能していても全く不思議ではありません。

そのような平等は、第二次世界大戦の敗北でアメリカによりもたらされた民主教育が日本独自の風土に吸収された結果であるのかもしれませんが。

2021年4月25日日曜日

【カタストロフ・マニア】島田雅彦 著 新潮文庫 令和2年12月1日発行

 この作品が発表された平成29年5月の時点では東日本大震災の記憶は鮮明でも新型コロナウイルスのコの字もなかったわけで、ワクチンのないウイルス感染により人が死に文明が崩壊するというストーリーは本の帯の「2036年、人類は淘汰される。圧倒的筆力で描く予言的SF長編!」というのも間違いではないでしょう。ただ、圧倒的筆力かどうかは読者の好みによるもので、筆力に関して個人的な感想としてはホント変わらないなと…ただ、本当にいろんな着想がバランスよく配置されています。


太陽のフレアによるコロナ質量放出が原因で生じた地球規模の大停電の影響でインフラが壊滅し、同時に流行した致死率の高い感染病が蔓延する中で政府は命の選別をするが、その実態はAIが人を支配し、選別された人を冬眠させ夢の中へ誘導して生物学的な死へいざなう。

文明を担う・再建させるための人は選別されているわけで、文明の穏やかな死を意味します。


文庫版の巻末に島田雅彦×宮内悠介 公開対談「激動の世界に、虚構の力で立ち向かう」が収録されていて、その中で“前半は終末もので「日本沈没」編、後半はポストヒューマンもので「幼年期の終わり」編”と指摘されていますが、人にとってはAIの暴走、AIにとっては悪意からではなく人が安楽に生きられる場を創出したという点では柾悟郎さんの「ヴィーナスシティ」の世界観にもつながるかもしれません。


人間の文明による地球への負荷が一線を越え、人の住める環境維持が困難となった時、AIはある意味人という種を生き延びさせるために致死率の高いウイルスと、それに対するワクチンを開発するように仕組む。選ばれた人は世界が回復するまで冬眠しながら頭に埋め込まれたチップで制御された夢を見る。しかし実際にはその間、眠り続ける肉体は必然的に死へ向かうでしょう。選ばれた人は、いわゆるVIPや専門家で、当然自分は生き残る側と信じて疑わないわけだけれど。

ワクチンの治験に参加して生き残った主人公は、選ばれる側になることを選ばずに外の世界を生きる…生きる世界はちょっと「日本沈没」と同じ小松左京さんの「復活の日」を感じます。あ、「復活の日」も細菌兵器により多くの人が亡くなり文明が崩壊するお話でした。

ヴィーナスシティでは主人公がAIに勝利しますが、この物語ではAIの作った世界はそのまま、主人公は別に生きていくことになります。

AIは人類を排除することが目的ではなく、まさに持続可能なレベルに強制的に持っていくことが目的だったのでしょう。

現実の社会でも日本の新型コロナ対策は強制力のない方法で終息が見通せませんが、ロックダウンや外出禁止など強制力を以って抑え込んでいる国もあり、緊急時にどのような方法を以って問題に対処するか。どのレベルまでを許容するかが問われています。


先の公開対談の他にも小島秀夫さん、江口直人さん、歌広場淳さん、吉川浩満さんの解説も収録されていますので文庫版の方がお得かも。